プロローグ・・・

 
…ここまできたか。

わが兄、模型電動士のホームページを見た感想である。 それにしても、すご過ぎる。

 「パソコン購入した。ホームページを作ってる」 寝耳に水の状態で話を聞いたのは去年(2000年)の晩夏。制作途中のホームページを見たのは、それから一か月ほどたってから。電動士家の一室、座卓の上に鎮座していたパソコン一座の中から現れたのは、見覚えのない模型、ならぴにラジコン軍団ご一行様。圧巻の一言である。 

それにしても…よくまあここまで。 『形態はマニアック』 『でも、内容は面白く』 『作りぱっなしにせず、更新する』 『インターネットで広げよう、模型の輪!』 試作の段階からこれである。

模型に興味のない妹は、画面を変えつつ説明をする兄の話が全然、分からない。が、両親の次につき合いの長いこの世界(なにせ私が母の背中でおんぷされていた頃、兄は井の頭公園の池に、プラモ、沈めていたんだもんな)。兄の人生を語るにははずせないものであることは、妹もよお〜く分かってお りますです、ハイ。

 しかし、ホームページを見た後、妹はこうも思った。 『こらあ、カッコ良すぎるぞ! 思う存分、模型ライフを楽しめるのは、回りの人間のおかげだろうがあ〜!!!』

まあ、その点については、兄もホームページで多少なりとも触れている。

ラジコンレース大会に参加中、新築した家に車が実っ込んで大騒ぎになった時の話も正直に書いてあるし(兄自身も「面白いだろ、これ」と言っていた)、コンクールに参加するための交通費を出してくれた両親のことにも触れている。 

ところが……。 家族の一員であり、血を分けた妹の存在は、どこ? 模型に関しては門外漢であることは認める。模型やラジコン作りを手伝ったこともない。でも、模型、作ってもらったことがあるんだよ。その話を載せないのは、なぜ? 

それに、妹には、兄の模型に関する、いろいろな思い出が残っている。 

例えば・・・ 

・もの心ついた時、妹の目の前に映ったのは、戦車の模型に夢中になっている兄の姿であった。

・いつのまにか戦車が姿を消し、車の模型に移って行った頃、保育園から小学生になった妹は、なぜ、兄が夢中になって車の模型を作っているのかほとんど理解していなかった。おまけに、その姿があまりにも印象深かったので、作文の題材にまで取りあげたほど。 

・文武両道というのだろうか、模型作りのかたわら学業もこなし、 見事、現役で大学合格。愛しの模型をいくつか残してわが家を離れ、休みを利用して帰省していた頃、妹が印象に残っているのは 模型ならぬ楽器のビオラ。 『模型、作るのやめたのかな……』 と思っていたら、なんのなんの。家族という監視の目が届かなく なった分、さらにヒートアップ。

・そうこうしているうちにわが家は兄を残し、千葉へお引っ越し。 その間、兄は大学卒業、幾多の試練を乗り越えて、希望職種へ無事就職、という人生の山場を何とかクリア。 『これからは、自分の稼いだ金で模型が作れる、バンザーイ!』 だからだったのか、『止まっているだけの車はつまらん。車は動かしてこそ意義があるんじゃ!』 なんてポリシーに目覚めたのか、いつの間にかラジコンモードに突入。プラモデル以上に金のかかる趣味にのめり込み、 『まるでラジコンと結婚したみたい。このままの状態で一生を送るつもりかいな』 白分のことは棚に上げ、ちょっぴり心配したこともある。

・そうだ、一度兄が出場したラジコンのビデオを見せてもらったことがある。でも、その時、妹は兄の期待を裏切ってキャーキャー笑いころげるばっかり。横で見ていた兄の顔は、心なしか、引きつっていたっけ……。※テレビ放送録画

・そうこうしているうちに父が定年。ついの住みかに決めたのは、 兄が車で十分行き来できる場所。 「ラジコンのレース、どうだった?」 時折、わが家にやって来る兄に父がこう聞くと、「あ、優勝した」。まるで近所に散歩に出かけてきたような感覚で話す兄の言葉に、妹は、ただただ呆れるばかり。

・しかし、そんな兄にも素敵な伴侶が現れた。初めて2人でわが家にあいさつにきた兄と義姉の姿は暖かくて微笑ましくて、 『もし、私が猫だったら、2人の間で寝転んで甘えた〜い。でも 、実際、その間に入るのは、猫じやなくて子供だな』 なんて、色気のない妹もうっとりさせる姿を見せていたが、その一方で、「模型、作るから」 といって、デートを早めに切り上げていたとは。おまけに結婚した後、花見もさせず『謎の第2倉庫』・・・、わが家の一角に荷物を運ぷ引っ越しの手伝いをさせていたのか、おい! 

・でも、結婚してからの2人は順調。めでたくジュニアも誕生した。そして4年後。 「そろそろ手狭になってきたし、いい土地があったから」 と、自分で間取り図を描き、自分の模型部屋も入れた家(父も家を建てる時、自分専用の「工作室」を作った。兄はそれを参考に したらしい)も作った。 

『やれやれ、これで、兄も安心して、マイペースで模型やラジコンに打ちこめるだろう。めでたしめでたし。どっとはらい。すごろくで言ったらあがりかな?』 なんて思ったのに、兄はこれに満足せず、いつの間にかインターネットの世界ヘ”レッツ・ゴーひろみ”。 おまけに趣味の模型を利用したホームページ制作まで手を伸ばし、ついに公開してしまったのだ。

※写真は子供の時の妹であります。by兄。