潜水艦大研究−2

その3 潜望鏡水抵抗による翼可動タイプ
潜水艦プラモのまことに巧妙なメカを、最もよく現しているグループがこれにあたります。船体中央、またはやや前方にある翼を上下させるわけですが、

・翼は平衡状態では下向きの角度がついており、動き出すと潜水艦は沈み始める。
・潜望鏡(またはレーダー)部分まで水に浸かると、水流抵抗により潜望鏡が後ろに倒れ、
  これと連結された翼も上向きに。
・潜水艦は水上に顔を出し、元の状態に戻る。

を繰り返すわけです。

先ほども触れましたが、このメカは本質的に破綻のない方法で、どのメーカーの製品もそれなりにうまく走るものができていました。それでもメーカーによる思想の違いは明白で、これによる自動浮沈のクセもきちんと出ています。以下、私が作ったプラモの中から4機種ほど紹介してみましょう。

(上図を含め、このページの画像は1965年頃の少年プラ模型新聞より転載しています)


 

3−1 ほぼ浮力中心位置に翼を持つタイプ・・・LSの海龍(昭和39年ごろ製作)
100円で買えたゴム動力の潜水艦の中でベストワンといえるのが、LSの海龍です。このモデルの素晴らしさはいくつかあります。

1.ほぼ浮力中心位置に大型の翼があった。

2.空気室の位置がよく、しかも子供がきちんと接着せずに組み立てても良いように、水抜きキャップが備えられている。

3.動力ゴムは船体の中心を通り、外からは全く見えない。おもりも二本の魚雷の中に隠すなど、ディスプレーにしても良い出来映え。

1は特に重要です。潜水艦は翼の力で潜行してゆきますので、翼が浮力中心位置にあれば潜水艦はほぼ水平に潜ることができます。

また水抜き栓は、万一空気室の接着が十分でなく、ここに水が進入しても容易に抜くことができます。更に言えば故意に水を少し入れて浮沈のバランスをとることもできました。

 

 

海龍は実物からして普通の潜水艦ではなく、有翼の水中飛行機とも言えるものでした。他の潜水艦モデルはスケール感と動きとのバランスで悩む宿命を持っていましたが、その点でもこのモデルは有利といえます。

私はなぜか海龍の組み立て説明書を2枚持っています。おそらく気に入って2度買ったのでしょう。


 

3−2 翼が前方にあるタイプ・・・青島の「サブマリン潜水艦ゴールデンドラゴン
標準的な原子力潜水艦は中央部にミサイル格納部分がありますので、必然的に司令塔は前に移動します。このため、このモデルも水平翼は前にあります。沈み始める際、頭から突っ込んで行くクセを持つので、後尾の翼をやや下げ舵にして全体のバランスをとっています。これにより浮上時は頭から水面に飛び出すようになります。

また、スクリューは船体の中心軸にはなく、やや下の方に置かれています。ゴムが丸見えなところはスケール感を損ねる要因ではありますが、子供にとっては組み立てやすく、またスクリューが水面に出ることはないので、確実に動力が推進力に変わります(実際海竜は、スクリューの一部が水面上に出ており、少し水をはねながら進んだ)。

さらには船体を傾けるモーメントがあまり顕著に出ないメリットもあります。昭和39年ごろ製作したこの模型、かなり考えられているキットです。

○船尾の水平翼がやや下げ舵になっているのがわかるでしょう? 
○ミサイルが発射できるなど、サービス精神満点ですね。 
○もちろんこれは想像上の近未来潜水艦でしょう。
青島の模型には多い例ですが、社内でデザインする人がいるんでしょうね。楽しそう。

※同類語 「白い白馬」 「女の婦人」 「病弱で体が弱いんです」


 

3−3 司令塔に翼のあるタイプ・・・どう見ても無理があった日模のCB−5
実際の潜水艦は司令塔に小さな翼を持っています。日模のCB−5はこれをかなり忠実に再現していますが、動きとなるとかなりつらいものがあります。

イメージしてください。自然の状態で水に浮かべたとき、少なくとも浮沈翼は水中になければならないのです。となると、このモデルの場合水面に司令塔だけが顔を出すようにセッティングしなければなりません。

当然空気室は小さめで浮力はほとんどありませんから、スクリューのモーメントで船体は傾きやすい傾向にあります。

この潜水艦は斜めになりながら潜っていきました。どうにもうまく行かなかったという記憶しか残っていませんが、今考えると基本設計から無理があったといえます。
 

 

3−4 後尾に翼のあるタイプ・・・山田のUボート
ご存知の方も多いでしょうが、山田模型のUボートです(シリーズにはこれも名作、イ−400がありますね)。電動のこのモデルは「最高」でした。

構造的には今までのタイプとやや異なっております。司令塔の上の潜望鏡が水流抵抗を受けて倒れるところまでは同じですが、その動きは針金によるリンケージで、スクリュー後方の翼(エレベーター)を上下させるという凝ったものです。

 翼は比較的小さめですが、スクリューの推進力をまともに受けるため大きな力を発揮します。潜水の姿勢は独特で、お尻を持ち上げた形でしばらくじたばたしていますが、やがて水深1mあたりまで潜ると、今度は船首を持ち上げて一気に浮上姿勢をとり、「レッドオクトーバー」のようにかなりダイナミックに顔を出します。

ちなみにこのモデルは単U電池を2本使いますが、指定は紙巻電池でした。現在そのような物は見ることができないと思いますが、私がこれ買った昭和39年当時はちょうど紙巻ブリスターから金属外装電池への過渡期であったようです。

しかしほとんどの模型屋、電気屋で紙巻電池は販売しておらず、仕方がないので金属外装の電池を入れたところ、完成したUボートはズブズブ沈んでしまうではありませんか! 電池の重量が相当違っていたわけです。仕方がないので、おもりを削って調整し、やっとまともに動かすことができました。

このモデルは本当に良く走りました。前述の井の頭公園はもとより、お風呂(銭湯)、海でも遊びました。 
 

 

消え去ったジャンル、潜水艦プラモ
昭和三十年代の後半、潜水艦プラモは一つの人気ジャンルであったと言えます。しかし今は全くといっていいほど消滅しています。

理由は簡単です。遊ぶ場所がないのです。潜水艦モデルは自宅のお風呂ではその力を発揮できません。現在子供を遊ばせることのできる池はまず見つからず(あっても立ち入り禁止)、学校のプールに忍び込んで・・・ということもできないでしょう。

 潜水艦プラモが当時あれだけ人気だったということは、全国のどこでも遊ぶ環境があったという証明ですが、今も、またこれからもその環境が戻ることはないでしょう。つまり(遊べる)潜水艦プラモの未来は永久に来ないのです。 

追記

 ところが・・。「潜水艦の未来は永久に来ない」などと勝手に思っていたところ、ホームページを開いてから色々と情報をいただいた結果、この世界には熱心に潜水艦プラモで楽しんでいる人たちが大勢いることを知りました。これを読んでいる皆さんも一度、あるいは久しぶりに潜水艦プラモを買ってみませんか?