ディーノ206コンペティツィオーネ その 4 二台の比較考察 

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と言うわけで二台のディーノ206コンペが完成しましたが、今回の並行制作は「模型の魅力とは何か」を考えさせられる良い機会になりました。

以下長文になりますが、二つのキットを作りながらずっと感じていたことをまとめたいと思います。

 

模型で伝えられること

模型は立体造形物ですから、

・ 実物の形や構造、動き、思想などを三次元的に理解できる

・四方八方から自由に眺めながら、実物の魅力を知ることができる

・実物と同じ、または類似の素材を使うことで、本物の持つ質感、硬さ、柔らかさなども伝えられる

ところに価値があると思っています。

構造や動きは技術、素材、コストなどの制約を受けますが、極限まで作り込んだエンジンや室内は少しでも本物へ近づきたいという情熱の現れ。それは見る人にも伝わります。
 

一方ボディー形状ですが、仮にこれをほぼ実車のままに縮小したとしても、眺めた時に「何か違うよな」と感じる場合があります。
そんな時に「寸法的に合っているからこれでいいのだ」と納得するか、あるいは違和感を解消する方向に修正するか、さらには実物の持つ魅力をもっと強調して行くかは設計者の判断・・・と言うかメーカーの考えになるでしょう。

「実物の魅力」・・・つまり”いいね”と感じる要素を思いつくままに挙げてみると、「美しさ」「力強さ」「速そう」「無骨さ」「なめらかさ」「すばしっこさ」「派手さ」「獰猛さ」「趣味の良さ」「未来的」「エレガントさ」などの言葉が次々 と浮かびます。
”いいね”と感じる要素は車によって異なっているでしょうから、そこを強調することで より魅力的な模型になる場合も多いと思います。

おそらくですが、ある程度正しさには目をつぶっても、買い手が「”いいね”が強調されてるね」と感じる模型の方が良く売れることをメーカーは経験的に知っているのではないかと思うのです。

 

ディーノ206コンペティツィオーネの魅力とは何か

ではこの車の魅力とは何なのか・・・。実車の画像をここに貼り付けるわけには行きませんで、グーグルで画像検索してみてください。

ボディー全体はなめらかな曲線と膨らみ、また場所によってはすっぱりと切り取られたエッジの組み合わせから成り立っています。ノーズは低く、ボディー後端の一部はやや跳ね上がると同時に、フロントとリアに配置された黒いスポイラーがデザイン上の大きな アクセントです。

全体としては空気の流れを非常に意識した造形となっています。当時(1967年)としてはちょっと未来的、そのデザインは今も多くの人を魅了しています。

ただ、このサイトを見ていて、二つの模型に慣れてしまった目で見ると、
「キャビンが妙にでかいね」
「意外と腰高かもね」
「タイヤが小さくて、ホイールハウスとの隙間も目立つね」

と感じる人もいるでしょう。

この車は今から40年近く前にデザインされています。当時の一般的な車の中にあっては十分以上に「スーパー」なのかもしれませんが、今のスポーツカーやスーパーカーはさらにべたっとしてい るし、ホイールも大きくなっている。ホイールハウスとタイヤの隙間も極小です。
これに慣れた目で見れば、ディーノ206コンペの実車に微妙な違和感を感じても不思議ではありません。

以上を踏まえ、二台の模型を眺めてみます。

 

「ひろっしJP」はこの車をどう 捉えているのでしょうか。

横から見ると、特にキャビン部分がかなり平べったくデフォルメされています。

 

斜め前から見ても、実車の写真に比べてやはりキャビンのボリュームは足りません。

その代り、私にはとてもかっこよく見えます。

このキットを制作していて、あちこちに「ひろっしJP」さんの実車への愛とこだわりを感じました。そんな「ひろっしJP」さんがミスをしてキャビンを小さくしたとは思えません。

彼はこのキットをよりスマートに見えるよう、わざとキャビンをつぶしたと考えます。

個人的好みから言えばここまでやらなくても良かったのではないかと思いますが目の前に置かれた現物はとても魅力的です。

(彼は同時に「サーキットの狼」で活躍した「ディノ  レーシング・スペシャル」もキット化していますから、これとのバランスも考えていた可能性もあるでしょうね)

 

一方「フジミ」はどうでしょう。

キャビンのつぶれ方は「ひろっしJP」ほどではありません。

ただし、

・ノーズがかなり跳ね上がっている
・リアに対してフロントのフェンダーのボリュームがありすぎる
・キャビンがやや後ろに寄っている
・フロントウインドウ頂上からルーフにかけてのラインが直線的
・フロントノーズがやや短く、逆にリアのオーバーハングが長い

などの特徴があるため・・・、
 

斜め前から見たときに「何だかな〜」と感じてしまいます。

と言ってもこの写真を見てディーノ206コンペ以外の車だと言う人もいないでしょう。

フジミの設計者さんが、

「私にはディーノがこのように見えました。十分似てるし、かっこいいと思いますよ」

とおっしゃったとしたら、話はそれでおしまいです。

 

でもね、この車の大きな魅力の一つが「なめらかな曲線と膨らみ」だと信じる私にとっては、例えば「ひろっしJP」のウインドウ下の丸みを帯びたラインと・・・、
いきなり直線になっているフジミのラインの違いを見れば、

「やっぱりわかってないじゃん」

と言うしかない。

 

つまり、

「ひろっしJP」は今の基準に合わせたかっこよさ、もしくは脳内に浮かぶかっこよさを再現しようとした

「フジミ」はそういうことは特に意識せず、製品ラインナップを一つ増やした

と考えます。

 

キットの価値は形だけではありません。フジミは作りやすしパーツの仕上げも十分合格水準。ウインドウの透明度も高いしスリットもきれいに抜けている。金型屋さんや成型屋さんは良い仕事をしていると思います。

値段に至ってはフジミが4200円なのに対し、手作りレジンの「ひろっしJP」は18000円ですから比べるレベルではありません。そもそもレジンキットを完成させるには一定水準以上のスキルと時間が必要になります。

でもやはり私は「ひろっしJP」を高く評価します。フジミには納得が行きません。

模型が「本物の魅力」を凝縮したものであるならば、設計する人にはそれを感じて受け止められるセンスと愛が必要ですが、前にも書いたようにクリアーパーツがスモークになっていたり、ペダルの設計が間違っていたりする例も含め、このキットからは 実車へのセンスや愛が感じられないのです。

 

以上、かなりひどいことを書きましたが、

「両者に言うほどの差はないんじゃない?」

と感じる人も多いでしょうね。

確かに遠目で眺めてみると二台の違いはわずかなもの。

そう、この話は多くの人にとってはどうでもいいことなんです。ここに書いてあることは変人のたわごとにしか過ぎません。

模型受難の時代にマイナーな車種をキット化してくれるメーカーがあるなんて、何とありがたいことでしょう。

ただ、このキットがもうちょっとかっこよかったら今よりもっとたくさん売れただろうと思うんです。ディーノは他社と発売日を競うような最新の車じゃないですし、形を決めるのにもう少し「手間」をかけて決定版を発売 できていたら、その後長く売れて会社ももっと儲かったんじゃないかと思うんだけどなあ・・・。

(フジミのディーノがどのくらい売れているかは知りませんが、ネットで見つかるこのキットの完成作例数はかなり少ない方だと思いますので、このキットはあまり売れていないと判断しました。本当はバカ売れしていたとしたら、謝ります)


ここまで書いて自分でも何となく頭が整理されてきました。

同じ実物をキット化しながらメーカーによって形が変わってしまう問題ですが、
「模型は正確であるべきだ」
とする立場と、
「目的があるなら修正を加えてもいいのだ」
と考える立場の間には深い溝があり、議論はいつまで経っても平行線、どちらかが一方を納得させられることはないのだと思います。
 
ただしこれを擬似的にでも判定する物差しがあるとすれば、それは「売れ行き」ではないかと考えます。
 
私がこうやってコツコツ模型を作りながら完成品を公開し、時にはキットについて文句たれているのも模型を作る人が一人でも増えればいいなと思っているからなんで、それには メーカーが売れるプラモを作って儲かってくれないと困るんですよ。

だから私の立ち位置は
「売れる模型が良い模型」
「サクサク作れ、すぐ次にかかれる模型が良い模型」
なんです。

その流れからも、ボディー形状について今の結論は
「みんなが買いたくなる形が良い形」
とさせていただきます。

 

ディーノ206コンペティツィオーネ その 4 二台の比較考察

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