●私のホームページの「意外」な理解者
暇を見てこつこつ作ったホームページ(HP)を立ち上げた時、私はこれをきっかけに全国のプラモ名人、ラジコン名人からノウハウなどいただき、再び模型作りにエネルギーがかけられればいいな、程度の考えしか持っていませんでした。
しかしこのサイトを注目してくださったのは、意外にも「プラモ研究者」と言われる方々でした。
「プラモの歴史の生き証人が発見された。」
「ほら、つっつくと動くぞ。」
「危険はないようだ。」
と、まるでシーラカンスのような注目を浴びたのです。
昭和20年代後半生まれの私は、ちょうど「新しい」遊び、プラモデルの成長と共に子供時代を過ごしてきました。日本初の国産プラモデルが発売されたのは1958年12月ですが(「プラモデルの王国」参照)、その時私は5歳になろうかと言うところ、ちょうど親父が作った零戦を見た時期にあたります。
一方「プラモ研究者」さん達は私より5〜10歳程度若い人が多いようです。もちろん子供時代にプラモに熱中していたわけですが、プラモ創生期のことは原体験ではありません。私が楽しんできたプラモもあこがれの存在で、手が出なかったという人もいます。私の話はある意味で貴重だとのことです。
その方々とやりとりしていて共通の思いを感じます。それは、こんなに楽しいプラモデル(あるいは模型)作りを、なぜ今の子供達はやらないのだろうか・・ということです。
●今の子供はなぜプラモを作らないの?
現在のプラモデル、特に子供達を取り巻く状況を、私は以下のように理解しています。
○子供のコミュニケーション手段として、まず外せないのは「テレビゲーム」である。 ○一方最近はカードゲームが伸びている。 ○現在、日常的にプラモデルを作る子供は全体の2割以下である(ある調査を見た)。 ○そのプラモデルはほとんどが「ガンダム」などのアニメロボット系、
これに「ミニ四駆」、「ダンガンレーサー」などが続く。 ○従来中心的だった動くプラモデルは、「ミニ四駆」、「ダンガンレーサー」などを除けば、
ごく一部の商品の販売に限られている。 ○戦車、飛行機、軍艦などのスケールモデルはほとんどがディスプレー(飾り専用)になり、
子供達はまずこれらを手にしない。
今更ながら、私の子供時代とのあまりにもの差に驚きます。
子供達が模型作り、特にスケールモデルをやらなくなってしまった理由、それを考えるには、逆説的に「なぜ私を含めた当時の子供がプラモに熱中したのか」を分析する必要があるようです。
私の子供の頃は・・ |
今の環境は・・ |
大人はほとんどが戦争体験者だった。大戦中の思い出と共に、兵器(の話題)も身近にあった。 |
戦争体験者は少なくなり、大和・零戦を語れる大人は少なくなった。最近の大学生の中には、日本がアメリカと戦ったこと、日本が無条件降伏をしたことすら知らない人がいると聞く。 |
↑ゆえに戦争マンガ、戦争映画は一つの人気ジャンルだった。押川春浪、海野十三らのジュブナイル、少年マンガ雑誌での小松崎茂のイラスト、望月三希也、ちばてつや、辻なおき、小沢さとる、松本零士らの活躍は子供達をプラモ作りにいざなう働きをした。 |
現在の子供向けのマンガ雑誌には、現実の戦争をベースにした作品、「実際」の科学技術をテーマにした作品はほとんど見かけない。
「アニメ」「テレビゲーム」という文化がしっかり根を下ろしている日本では、子供向けマンガのテーマもこれに沿ったものが多く、動くプラモデルのベースになる「実在するメカ」を知る機会が少なくなっている。 |
高度成長時代であり、新しいメカ(新幹線、飛行機、ロケットなど)の登場や、海外の情報(F−1、映画など)の流入で、世の中が未来に向かって興味津々の時代だった。
原水爆実験などへの不安も強く、戦争映画の技術を応用した「宇宙冒険もの」、「怪獣もの」などの特撮映画が盛んに作られた。 |
未来に対する熱い夢を語る人もいるが、環境破壊、廃棄物処理、食品の安全性、クローン技術など、進歩しすぎた科学に対する不安が、叫ばれている。 |
プラスチックの登場で、誰もが簡単に、完成度の高い、そしてリアルに動く模型が手にできるようになった。ギアで複雑な動きをする模型も多かったが、これらは自分で苦労して組み立てなくてはならなかった(挫折も多かった)。
プラモは、動かなくてはならなかった。飛行機であろうと、あちこち可動・開閉する製品がもてはやされた。これは実物の構造への興味をかき立てた。 |
技術ははるかに進み、子供向けのプラモは接着剤やドライバーを使わなくても完成できるようになった。難しいメカはほとんどユニット化され、そのしくみを知ることは少ない(例えばタカラのゾイドシリーズ)。
プラモは大人の趣味になり、スケール感を重視するために不利な動く模型、あちこちが可動する模型は少なくなった。 |
戦車・潜水艦・軍艦・ゴム動力飛行機など、動く模型を作っても、遊ぶ場所には事欠かなかった。安全に対する考えは今よりも鷹揚だった※。
車も少なく、道路も遊び場の一つだった。
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残念ながら池やプールに潜水艦を持ち込んで遊ぶことは難しい。ゴム動力飛行機をとばす場所もどれだけあるか・・。 |
※私は子供時代、右のポケットには厚手の鉄板で作った手裏剣、左には2Bやかんしゃく玉を忍ばせ、よく刺さりそうな板塀や壁を見つけると、他人の家だろうがかまわずに投げつけて遊んでいましたが(転んで太股をけがしたこともある)、今そんなことをやったら学校や町内会で大問題になるでしょう。
●これは困ったことなのか
子供たちの日常を取り巻く環境に”模型のベースとなる現実世界の情報が広がっていない”という事実が、子供のスケールモデルへの興味を失わせています。今の子供の回りにあるのはアニメやテレビゲームの世界。子供達がこれに夢中になるのは当然で、大人達の中には眉をひそめる人もいます。
これは、私よりまた一世代上の大人が「最近の子供はメンコもベーゴマもやらない。プラモデルなどという、誰が作っても同じものができる、くだらん遊びにはまっている。」と言っていたのと同じことなのでしょうか?
ある意味でそれは正しいのでしょう。だが、私はあえて否定する側に立ちます。プラモをやる人が減ったとしても私自信は困りません。だが、子供が特に「遊べるスケール模型」作りから離れていった時、大きく将来的に言えば日本の製造業が困るのではないでしょうか。
プラモの中でもスケール模型には時代の背景があります。戦艦大和を作ることは、あの戦争の歴史を知らず知らずに学ぶことでありましょう。また模型に限らずメカを自分の手でいじることは、モノ作りの基本を身につけることになります(※)。子供時代にプラモ作りを楽しんだことを原体験として、今企業などのエンジニアになっている人は多いのではないか。
大きなことを言えば、製造業の衰退した国はいびつな姿になっていくかもしれません。
人間は「モノを作る」動物です。特に資源の少ない日本は優れた技術で付加価値の高い「モノ」を作り、それを輸出することで外貨を稼ぎ、生活を豊かにしてきました。モノ作りにアドバンテージがなくなった日本は今のようにはいられないと思うのですよ。
※アニメのプラモでももちろん良いのですが、アニメ自体が架空世界のお話である限り、これをいくら精密に再現しても本物のメカや歴史の追体験にはならないかな・・とも思っています。アニメのプラモが好きな人、ゴメンね。
●ではどうすれば良いのか
一個人がでかいことを言っております。
「ではお前に何ができるのか?」と聞かれて、十分納得させられる回答を持ち合わせてはいませんが、せめて一つ一つ模型を作って公開することで、ささやかな回答とさせていただきたいと思います。
もちろん「プラモ」がモノ作りの唯一の訓練方法だなんて言いません。学び方はいくらでもあります。でも私には「プラモ」しかお見せするネタがないのです。
私のサイトを見て、「お、久しぶりに子供とプラモを作ってみようかな。」などと考える方がおられれば、これはまさに「してやったり!」であります。
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